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かんかん虫

By: 有島 武郎
Narrated by: 浅木 俊之
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Publisher's summary

さび落とし工員『かんかん虫』として働く男たち。休憩中、私はヤコフという男に、身の上話を聞かされる。

さび落とし作業の休憩中、ヤコフという大男は言う。
「船の胴腹にたかって、かんかんと敲くからかんかんよ、それは解せる、それは解せるがかんかん虫、虫たあ何んだ……出来損なったって人間様は人間様だろう」

それを皮切りに、彼は身の上話を始めた。ヤコフには娘がいたが、同じ『かんかん虫』のイフヒムという男と良い仲になっていたという。しかし藪から棒に、会計士のグリゴリーという男が、娘を囲いたいと言い出した。
「虫の娘を人間が欲しいと云って来やがったんだ。」

しかしイフヒムが納得できるはずがない。検分にやって来るグリゴリーに、イフヒムが何かしでかすだろう、と。
「人間が法律を作れりゃあ、虫だって作れる筈だ」

虫の法律的制裁が公然と行われるだろうことに、私の好奇心は高まった。


学問を修め、品性を磨いて自身の人格を高めていくという教育方針の中で育った有島武郎は、西洋風の教育を受け、ミッションスクールで西洋思想を身につけました。学習院を経て進学した札幌農学校において、友人に感化されキリスト教に入信し、自身の内側を省みる傾向を深めました。

しかし、その後アメリカに渡った際に戦争に遭遇したことでキリスト教信仰に疑念を抱くようになり、棄教したのち文学に自己表現の可能性を見出すようになりました。そうして、志賀直哉らと共に雑誌「白樺」の創刊に参加して発表された彼の小説の作風は、人種や国籍を問わず人間性を重んじる人道主義的な当時の文学界で注目を集めました。

小説や戯曲、評論だけでなく童話作品も発表しており、幼少時代の体験をもとに子どもの内面に迫った『一房の葡萄』は、雑誌「赤い鳥」に掲載されました。またこの作品は、自ら装幀、挿画を手掛けており、彼の3人の子どもに向けて献辞が捧げられています。
©2022 PanRolling
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