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一塊の土

By: 芥川 龍之介
Narrated by: 斉藤 範子
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Publisher's summary

代々江戸城の茶室を管理し、将軍や大名に茶の接待をする「奥坊主」と呼ばれる職を務めた家柄に育ち、文芸や芸事への興味・関心を早くから持っていた芥川龍之介。
才気にあふれ、世話好きな性格は周りの人々を惹きつけ、たくさん悩みながらもよく笑い、よくしゃべる人だったそうです。
そんな芥川は、東京帝国大学に入学した翌年、高校の同級だった久米正雄らと共に第三次「新思潮」を創刊し、小説や翻訳を発表しました。
次いで第四次「新思潮」を創刊の際に掲載した『鼻』が夏目漱石に認められ、文壇に登ることとなりました。
その後新聞社に入社し、記者としてではなく専業作家として意欲的に執筆活動を続けました。
芥川は、漱石や森鴎外から文体や表現の影響を受けたり、キリシタンもの、江戸を舞台にしたものなど題材に応じて文体を変えたりと、意識的な小説の書き方をしていました。
また、鈴木三重吉により創刊された児童雑誌「赤い鳥」には、初となる童話作品『蜘蛛の糸』を発表、その後も同雑誌を中心に童話作品を相次いで発表し、幅広く作品を世に残しています。


お住の倅に死別れたのは茶摘みのはじまる時候だつた。
倅の仁太郎は足かけ八年、腰ぬけ同様に床に就いてゐた。かう云ふ倅の死んだことは「後生よし」と云はれるお住にも、悲しいとばかりは限らなかつた。お住は仁太郎の棺の前へ一本線香を手向けた時には、兎に角朝比奈の切通しか何かをやつと通り抜けたやうな気がしてゐた。
仁太郎の葬式をすました後、まづ問題になつたものは嫁のお民の身の上だつた。お民には男の子が一人あつた。その上寝てゐる仁太郎の代りに野良仕事も大抵は引受けてゐた。それを今出すとすれば、子供の世話に困るのは勿論、暮しさへ到底立ちさうにはなかつた。かたがたお住は四十九日でもすんだら、お民に壻を当がつた上、倅のゐた時と同じやうに働いて貰はうと思つてゐた。壻には仁太郎の従弟に当る与吉を貰へばとも思つてゐた。
それだけに丁度初七日の翌朝、お民の片づけものをし出した時には、お住の驚いたのも格別だつた。お住はその時孫の広次を奥部屋の縁側に遊ばせてゐた。遊ばせる玩具は学校のを盗んだ花盛りの桜の一枝だつた……
©2022 PanRolling
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