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玄鶴山房

By: 芥川 龍之介
Narrated by: 斉藤 範子
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Publisher's summary

代々江戸城の茶室を管理し、将軍や大名に茶の接待をする「奥坊主」と呼ばれる職を務めた家柄に育ち、文芸や芸事への興味・関心を早くから持っていた芥川龍之介。 才気にあふれ、世話好きな性格は周りの人々を惹きつけ、たくさん悩みながらもよく笑い、よくしゃべる人だったそうです。 そんな芥川は、東京帝国大学に入学した翌年、高校の同級だった久米正雄らと共に第三次「新思潮」を創刊し、小説や翻訳を発表しました。 次いで第四次「新思潮」を創刊の際に掲載した『鼻』が夏目漱石に認められ、文壇に登ることとなりました。 その後新聞社に入社し、記者としてではなく専業作家として意欲的に執筆活動を続けました。 芥川は、漱石や森鴎外から文体や表現の影響を受けたり、キリシタンもの、江戸を舞台にしたものなど題材に応じて文体を変えたりと、意識的な小説の書き方をしていました。 また、鈴木三重吉により創刊された児童雑誌「赤い鳥」には、初となる童話作品『蜘蛛の糸』を発表、その後も同雑誌を中心に童話作品を相次いで発表し、幅広く作品を世に残しています。 ………それは小ぢんまりと出来上った、奥床しい門構えの家だった。 尤もこの界隈にはこう云う家も珍しくはなかった。 が、「玄鶴山房」の額や塀越しに見える庭木などはどの家よりも数奇を凝らしていた。 この家の主人、堀越玄鶴は画家としても多少は知られていた。 しかし資産を作ったのはゴム印の特許を受けた為だった。 或はゴム印の特許を受けてから地所の売買をした為だった。 現に彼が持っていた郊外の或地面などは生姜さえ碌に出来ないらしかった。 けれども今はもう赤瓦の家や青瓦の家の立ち並んだ所謂「文化村」に変っていた……… しかし「玄鶴山房」は兎に角小ぢんまりと出来上った、奥床しい門構えの家だった。 殊に近頃は見越しの松に雪よけの縄がかかったり、玄関の前に敷いた枯れ松葉に藪柑子の実が赤らんだり、一層風流に見えるのだった。 のみならずこの家のある横町も殆ど人通りと云うものはなかった。 豆腐屋さえそこを通る時には荷を大通りへおろしたなり、喇叭を吹いて通るだけだった……
©2022 PanRolling
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