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西方の人

By: 芥川 龍之介
Narrated by: 斉藤 範子
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Publisher's summary

代々江戸城の茶室を管理し、将軍や大名に茶の接待をする「奥坊主」と呼ばれる職を務めた家柄に育ち、文芸や芸事への興味・関心を早くから持っていた芥川龍之介。 才気にあふれ、世話好きな性格は周りの人々を惹きつけ、たくさん悩みながらもよく笑い、よくしゃべる人だったそうです。 そんな芥川は、東京帝国大学に入学した翌年、高校の同級だった久米正雄らと共に第三次「新思潮」を創刊し、小説や翻訳を発表しました。 次いで第四次「新思潮」を創刊の際に掲載した『鼻』が夏目漱石に認められ、文壇に登ることとなりました。 その後新聞社に入社し、記者としてではなく専業作家として意欲的に執筆活動を続けました。 芥川は、漱石や森鴎外から文体や表現の影響を受けたり、キリシタンもの、江戸を舞台にしたものなど題材に応じて文体を変えたりと、意識的な小説の書き方をしていました。 また、鈴木三重吉により創刊された児童雑誌「赤い鳥」には、初となる童話作品『蜘蛛の糸』を発表、その後も同雑誌を中心に童話作品を相次いで発表し、幅広く作品を世に残しています。 わたしは彼是十年ばかり前に芸術的にクリスト教を――殊にカトリツク教を愛してゐた。 長崎の「日本の聖母の寺」は未だに私の記憶に残つてゐる。 かう云ふわたしは北原白秋氏や木下杢太郎氏の播いた種をせつせと拾つてゐた鴉に過ぎない。 それから又何年か前にはクリスト教の為に殉じたクリスト教徒たちに或興味を感じてゐた。 殉教者の心理はわたしにはあらゆる狂信者の心理のやうに病的な興味を与へたのである。 わたしはやつとこの頃になつて四人の伝記作者のわたしたちに伝へたクリストと云ふ人を愛し出した。 クリストは今日のわたしには行路の人のやうに見ることは出来ない。 それは或は紅毛人たちは勿論、今日の青年たちには笑はれるであらう。 しかし十九世紀の末に生まれたわたしは彼等のもう見るのに飽きた、――寧ろ倒すことをためらはない十字架に目を注ぎ出したのである。 日本に生まれた「わたしのクリスト」は必しもガリラヤの湖を眺めてゐない。 赤あかと実のつた柿の木の下に長崎の入江も見えてゐるのである。 従つてわたしは歴史的事実や地理的事実を顧みないであらう……
©2022 PanRolling
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