• ボイスドラマ「美女峠の涙」
    Jun 5 2025
    飛騨の地に残る切ない記憶、「あゝ野麦峠」。「美女峠の涙」は、現在の飛騨高山に生きる姉妹——27歳の姉・よもぎと、15歳の妹・りんご——がその記憶を追体験することで、姉妹の絆と地域の歴史に触れていく物語です。舞台は高山市久々野町と朝日町。そして峠道「美女峠」。虫が大の苦手な妹・りんごが、キャンプで訪れた峠道で出会ったのは、100年前の記憶と、失われた兄妹の絆でした。現代と過去が交錯する峠で、二人の姉妹が見つけた「涙」の理由とは・・・【ペルソナと設定】高山市朝日町と高山市久々野町を舞台にした、27歳の姉、15歳の妹と一回り離れた姉妹の物語。妹が生まれて、難産で母は亡くなり、薬科大学をあきらめようとしますが、父に押し切られて進学し、東京の大学で6年間過ごします。その間、薬膳カフェは休業。父は自分の実家のある久々野町へりんごとともに引越しました。大学から戻ったよもぎは町内に一箇所だけあるドラッグストアで働きながら、27歳になった時に朝日町の薬草カフェを復活させてひとりで切り盛りしています。よもぎは朝日町のシェアハウスで一人暮らし。異父兄妹のりんごとの仲は決して悪くないが、母が亡くなったことで父や妹と少し距離を置いていた。この世界観は後編の伏線回収へつながります・・【ペルソナ】・姉:よもぎ(27歳)=朝日町の薬草カフェを1人できりもりする(CV:蓬坂えりか)・妹:りんご(15歳)=久々野生まれの高校一年生、虫が嫌い(CV:坂田月菜)・兄:たつ(15歳)=貧乏な農家の長男として朝から晩まで働く(CV:蓬坂えりか)・妹:みね(13歳)=農村の口減しのため飛騨から岡谷の製紙工場へ出稼ぎに行き体を壊す(CV:坂田月菜)[シーン1:よもぎとりんご/よもぎが運転する車の中で】◾️SE:朝のイメージ(朝の山鳥)「やっぱりアタシ、キャンプなんて、行きたくな〜い!」「なんで?あんなに楽しみにしてたじゃない」「だって虫がいっぱいいるんだもん!」「当たり前じゃない、キャンプ場だから」「美女高原、なんて名前だから虫なんていないと思ってたのに」「なわけあるかい」「美女に虫はつきもの、ってこと?」はあ〜っ。助手席の妹が眉間に皺を寄せて私を見つめる。天然ぶりは相変わらず。ほんとにこんなんでキャンプ場行って大丈夫かしら。妹の名前はりんご。私とはひとまわり年の離れた15歳。まあかわいいんだけど、たまに理解不能な宇宙人になる。妹は父と2人で久々野町に暮らしてる。先々代から続いてるりんご農家。私は、というと朝日町(あさひちょう)のシェアハウスで1人暮らし。町内で小さな薬膳カフェを営業中。名前は、よもぎ。漢方薬剤師の資格があるから、ネットでいろんな相談にも乗っている。町内で一軒だけの薬屋さんとも仲良しだ。今日は妹の学校が主催するキャンプ合宿。うらやましい。美女高原のキャンプ場だって言うから早朝から車で迎えに行ってあげたのに。助手席に座ったとたん、この調子。キャンプ場の合宿について、ディスりっぱなし。そんなに嫌なら行かなきゃいいのに。「ねえお姉ちゃん、美女高原まであとどのくらい?」「もうぶり街道入ったから、あと5分くらいじゃない。」「集合時間までまだだいぶあるから、もっと先まで行ってみようよ」「先って?ぶり街道の?」「うん」「じゃ美女峠の向こうまで走ってみる?山道あんま得意じゃないけど」「やった。うれしみの舞」「いい気なもんね」「美女峠ってネーミング。峠なのに美女。かわちい〜」「150年前に工女さんたちが越えてきた道よ」「なにそれ?」「あゝ野麦峠じゃない」「あ!それ、キャンプファイアーのときに聞くよ」「どういうこと?」「高根町のおばあちゃんがきてくれて、読み聞かせするんだって」「いいわねえ。でもりんごって、学校で習わなかったの?あゝ野麦峠」「授業で映画上映会、やってた気がする」「じゃ知ってるでしょ」「多分私、その日学校休んだ」「なんで?」「東京行ってたもん」「え?」「お姉ちゃんの卒業式だった・・」「あ・・・そっか、お父さんと来てくれたんだよね!ごめんね、ありがと」「ううん、...
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    13 mins
  • ボイスドラマ「龍が舞う桜の下で〜千年の時を越えて」(リマスター版)
    May 10 2025
    桜が舞う季節、私はまた、あの日のことを思い出す。かぐらという名前を授かり、舞姫としての役目を受け継いできたけれど——あの日、鳥居をくぐった先で出会ったのは、伝説なんかじゃない、本物の“奇跡”だった。この物語は、私の心に刻まれた、忘れられない春の出来事。位山の聖域に守られながら、千年の時を超えて、龍が舞った——その奇跡を、あなたに届けたい。ようこそ、『龍が舞う桜の下で〜千年の時を越えて』の世界へ(CV:小椋美織)【ストーリー】[シーン1:高校のグラウンドで/陸上部の練習】<かぐらのモノローグとセリフで進行>■ピストルの音「パンッ!」〜走る陸上部の少女たち「追い風よ!そのまま加速!インターハイは目の前だからね!」「よしっ!ラスト50!いけるよ!」吹き降ろす風の中、陸上部の女子たちがゴールを駆け抜けていく。みんな順調に仕上がってるみたいでひと安心。私は、かぐら。高山市内の高校に通う18歳。で、陸上部のキャプテン。インターハイに向けて頑張ってきたけど、ブロック大会に勝ち進まないと、その先はない。こうなったら神頼みかな。いや、私がそれ言ったらだめでしょ、ふふ。「さあみんな、日が暮れる前にラスト一本決めよう!いくよ!」もちろん私もみんなと走る。■陸上部員の走る音はあ、はあ、はあっやるしかない。今年こそぜったい・・・インターハイ、行くんだからはあ、はあ・・・■夕暮れのイメージ(ヒグラシ)■陸上部員の走る音■自転車のペダルとベルの音部活のあとは夕陽とかけっこ。高山駅まで3.5kメートル。全速力で自転車のペダルを漕ぐ。だって、4時39分に乗らないと、5時台は列車がないんだもん。■高山本線の車内音高山駅から飛騨一之宮駅までは7分。この時間が一番幸せ。お気に入りのウェブコミックを読む、至福のひととき。ちょうど一話読み切る頃に、飛騨一之宮駅に到着するから。最近のお気に入りは・・・流行りの異世界転生モノ。私、けっこうすぐに感情移入しちゃうんだ。だから気をつけないと。乗り越しちゃったら、次の久々野で1時間待ち!ありえない。って思う人、多いんじゃない?・・・なんて考えてたら、あ、もう着いちゃった。そりゃそうよね。お隣の駅なんだから。■高山本線が到着する音ここから家までは歩き。ゆっくり歩いて15分くらいかな。ゆるやかな上り坂だから、着く頃にはほどよく疲れていい感じ。■カエルの鳴く声宮川を渡り、41号を越えると、周りはのどかな田園風景。しばらく歩くと見えてきたのは、石作りの大鳥居。私は一瞬躊躇する。”夜の鳥居は異世界に通じている”誰かそんなこと、言ってたような・・・あ、さっき読みかけのウェブコミックだ。そういえば、異世界召喚ものだったっけ・・月明かりの下、大きな影を落とす鳥居。その向こうは深い霧に包まれているように見える。どうしようかな・・・いや、だめだ。今夜は神楽舞、練習しておかなきゃ。もうすぐ、大祓えの神事がやってくるんだもの。私は、舞姫(まいひめ)。臥龍(がりゅう)の舞姫。「舞姫」とは聖域で神楽を舞う女性。私の名前が「かぐら」だからってわけじゃないけどね(笑)臥龍の舞姫は龍脈(りゅうみゃく)を読み、龍神と気を通わせて、大地の気の流れを整えるの。あ、龍脈というのは、大地の気が流れる道。修行を積めば龍と意識を一体化して、気の流れを変えることもできるんだ。青龍、赤龍、黄龍、白龍、黒龍という五龍すべてを意のままに。(せいりゅう、せきりゅう、こうりゅう、はくりゅう、こくりゅう/ごりゅう)もちろん、私はまだ修行中。そこまではいってないけど。「臥龍」って「まだ世に知られていない天賦(てんぷ)の才を持つもの」という意味もあるんだ。そうよ。こんなことで恐れちゃいけない。よし。私は、鳥居の真下へ向かって、一歩踏みだした。息を呑む。高鳴る心臓の鼓動。私は心の中で龍神に祈りながら、鳥居をくぐる。その瞬間——■強い風の音「ザァァァァァ——ッ!!」風の渦に包まれ、視界が暗転する。足元が崩れ、身体が吸い込まれる感覚。目を開けた時、そこには境内も絵馬殿(...
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    16 mins
  • ボイスドラマ「龍が舞う桜の下で〜千年の時を越えて」
    May 10 2025
    桜が舞う季節、私はまた、あの日のことを思い出す。かぐらという名前を授かり、舞姫としての役目を受け継いできたけれど——あの日、鳥居をくぐった先で出会ったのは、伝説なんかじゃない、本物の“奇跡”だった。この物語は、私の心に刻まれた、忘れられない春の出来事。位山の聖域に守られながら、千年の時を超えて、龍が舞った——その奇跡を、あなたに届けたい。ようこそ、『龍が舞う桜の下で〜千年の時を越えて』の世界へ(CV:小椋美織)【ストーリー】[シーン1:高校のグラウンドで/陸上部の練習】<かぐらのモノローグとセリフで進行>■ピストルの音「パンッ!」〜走る陸上部の少女たち「追い風よ!そのまま加速!インターハイは目の前だからね!」「よしっ!ラスト50!いけるよ!」吹き降ろす風の中、陸上部の女子たちがゴールを駆け抜けていく。みんな順調に仕上がってるみたいでひと安心。私は、かぐら。高山市内の高校に通う18歳。で、陸上部のキャプテン。インターハイに向けて頑張ってきたけど、ブロック大会に勝ち進まないと、その先はない。こうなったら神頼みかな。いや、私がそれ言ったらだめでしょ、ふふ。「さあみんな、日が暮れる前にラスト一本決めよう!いくよ!」もちろん私もみんなと走る。■陸上部員の走る音はあ、はあ、はあっやるしかない。今年こそぜったい・・・インターハイ、行くんだからはあ、はあ・・・■夕暮れのイメージ(ヒグラシ)■陸上部員の走る音■自転車のペダルとベルの音部活のあとは夕陽とかけっこ。高山駅まで3.5kメートル。全速力で自転車のペダルを漕ぐ。だって、4時39分に乗らないと、5時台は列車がないんだもん。■高山本線の車内音高山駅から飛騨一之宮駅までは7分。この時間が一番幸せ。お気に入りのウェブコミックを読む、至福のひととき。ちょうど一話読み切る頃に、飛騨一之宮駅に到着するから。最近のお気に入りは・・・流行りの異世界転生モノ。私、けっこうすぐに感情移入しちゃうんだ。だから気をつけないと。乗り越しちゃったら、次の久々野で1時間待ち!ありえない。って思う人、多いんじゃない?・・・なんて考えてたら、あ、もう着いちゃった。そりゃそうよね。お隣の駅なんだから。■高山本線が到着する音ここから家までは歩き。ゆっくり歩いて15分くらいかな。ゆるやかな上り坂だから、着く頃にはほどよく疲れていい感じ。■カエルの鳴く声宮川を渡り、41号を越えると、周りはのどかな田園風景。しばらく歩くと見えてきたのは、石作りの大鳥居。私は一瞬躊躇する。”夜の鳥居は異世界に通じている”誰かそんなこと、言ってたような・・・あ、さっき読みかけのウェブコミックだ。そういえば、異世界召喚ものだったっけ・・月明かりの下、大きな影を落とす鳥居。その向こうは深い霧に包まれているように見える。どうしようかな・・・いや、だめだ。今夜は神楽舞、練習しておかなきゃ。もうすぐ、大祓えの神事がやってくるんだもの。私は、舞姫(まいひめ)。臥龍(がりゅう)の舞姫。「舞姫」とは聖域で神楽を舞う女性。私の名前が「かぐら」だからってわけじゃないけどね(笑)臥龍の舞姫は龍脈(りゅうみゃく)を読み、龍神と気を通わせて、大地の気の流れを整えるの。あ、龍脈というのは、大地の気が流れる道。修行を積めば龍と意識を一体化して、気の流れを変えることもできるんだ。青龍、赤龍、黄龍、白龍、黒龍という五龍すべてを意のままに。(せいりゅう、せきりゅう、こうりゅう、はくりゅう、こくりゅう/ごりゅう)もちろん、私はまだ修行中。そこまではいってないけど。「臥龍」って「まだ世に知られていない天賦(てんぷ)の才を持つもの」という意味もあるんだ。そうよ。こんなことで恐れちゃいけない。よし。私は、鳥居の真下へ向かって、一歩踏みだした。息を呑む。高鳴る心臓の鼓動。私は心の中で龍神に祈りながら、鳥居をくぐる。その瞬間——■強い風の音「ザァァァァァ——ッ!!」風の渦に包まれ、視界が暗転する。足元が崩れ、身体が吸い込まれる感覚。目を開けた時、そこには境内も絵馬殿(...
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    16 mins
  • ボイスドラマ「赤い記憶〜心を映す鏡」
    May 7 2025
    今回お届けするボイスドラマは、高山レッドこと「アカナ」が主人公。祭と屋台を誰よりも愛する、ひたむきな少年が歩む成長の物語です。失われた祭屋台『浦島台』。そして、存在すら知らなかった双子の姉『アカネ』。赤かぶの町、宮川朝市。さるぼぼに宿る祈り。時を超えて紡がれる家族の絆。心の奥に秘めた想いが、静かに、しかし確かに、未来へと動き出します。どうぞ、アカナとアカネの物語を、あなたの胸に刻んでください。本作は、公式サイト「ヒダテン!」をはじめ、各種Podcastプラットフォーム、「小説家になろう」サイトでもお楽しみいただけます。【ペルソナ】・アカナ(16歳)=高山生まれ高山育ち=生粋の高山っ子/祭と屋台が何よりも好き(CV:米山伸伍)・アカネ=アカナの双子の姉(享年1歳)(CV:小椋美織)・朝市の野菜売り(38歳)=宮川朝市で赤かぶを売る/アカネをよく知る朝市の野菜売り(CV:小椋美織)【資料/さるぼぼに顔がない理由】https://column.enakawakamiya.co.jp/gifu/derived-from-hida-sarubobo.html【資料/失われた屋台/浦島台】https://www.takayama-yatai.jp/yatai/lostfloat/urashimatai.html【資料/萬屋仁兵衛工房】https://yorozuya2.jp/the-first-generation-nihei-yorozuya/【資料/白線流し】https://school.gifu-net.ed.jp/wordpress/hida-hs/school_info/hakusen-nagashi/[シーン1:八幡祭】◾️SE:高山祭の喧騒「そうれっ!」(※男衆たちの声)櫻山八幡宮の表参道。絢爛豪華な11台の祭屋台が曳き揃えられる。10月の9日・10日は秋の高山祭。櫻山八幡宮の境内では、布袋台(ほていたい)が見事なからくりを奉納していた。祭と屋台は高山の華!これほど美しくて、荘厳で、人を惹きつける祭などほかにはないだろう。オレの名は、アカナ。高山で生まれ、高山で育った、生粋の高山っ子。飛騨人(ひだびと)だ。生まれたのは、一之新町(いちのしんまち)。(※あえて旧町名にしてあります)桜山八幡宮の参道と江名子川(えなこがわ)に挟まれたエリア。小さいころから桜橋で遊び、秋葉様へは毎日お参りした。いま、オレの視線の先にあるのは、華やかな祭屋台たちの横でひっそりと佇む、1台の志良車(しゅらぐるま)。志良車というのは、台車部分だけが残った屋台のこと。明治8年の大火で焼け残った『浦島台』の志良車である。失われた屋台『浦島台』。記録によると、浦島台はからくりも備えていたらしい。演目は誰もが知る浦島太郎伝説。玉手箱を持つ浦島の人形が屋台のステージをゆっくりと進む。やがて白い鳩が飛び出すと、浦島の顔は一瞬にして白髪の翁に変わる。山王祭(さんのうまつり)で言えば、三番叟(さんばそう)か。『浦島台』の志良車を見ながら、胸の奥に、遣る瀬無い思いが募っていった。[シーン2:宮川朝市】◾️SE:宮川朝市の雑踏「おはよう」「おはよう、アカナ。祭の朝に、朝市なんかうろうろしとってええんか?」「ええんやよ。うちの組は」「ほんなもんかね」祭の2日目。宮川朝市をうろつく。顔見知りのおばちゃんと無駄話。生まれたときから野菜を売ってる隣組のおばちゃんだ。そろそろ今年採れた赤かぶが並ぶ頃だな。「お前いくつになった?」「16歳」「ほうか。も16年か。時が経つのは早えもんやなあ」「年寄りみてえなこと言うなや」「ははは。あ、おいアカナ。腰のさるぼぼとれそうやぞ」「ああ、これな。わかっとる。直さならん。母さん、このさるぼぼ見るといっつも捨てろって言うんや。早よ国分寺でお焚き上げしてもらいやあって」「そりゃ、しゃーないわな。あんま見とうねえやろし」「え?どういうこと?」「あ、いや。なんもねえ」ヘンなこと言うなあ。おばちゃん。それからは、どうでもいい話になったけど、どうにも気になった。腰につけたさるぼぼの人形をはずす。顔のないさるぼぼが何か言いたげにオレを見つめていた。[シーン3:祭の夜/アカナの夢】◾️SE:夢の中のイメージ祭りが終わったその晩。不思議な夢を見た。淡いピンクの霧がただよう世界。その中にぼんやり人影が浮かぶ。赤い顔をした・・・さるぼぼ・・・?「久しぶりだね、アカナ」「え?」「わかんない?」「ええっ?」「そっか、...
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    18 mins
  • ボイスドラマ「美織華」
    May 5 2025
    『美織華(ヴィオリカ)』は、飛騨一之宮の「どぶろく」と、遥か遠いモルドバの「ヴィオリカワイン」をつなぐ、ひとりの女性・美織の小さな旅路を描いた物語です。生まれ育った飛騨高山、そして血の中に流れる異国のルーツ。伝統の酒造りと、家族への想い。ふたつの文化、ふたつの絆が、香り高くひとつに重なっていきます。この物語は、飛騨高山から世界へ発信する番組「Hit’s Me Up!」の公式サイトをはじめ各種Podcastプラットフォームで配信中です。また、「小説家になろう」サイトでも読むことができます。ぜひ、耳で、心で、美織とともに香り立つ旅をお楽しみください。(CV:小椋美織)【ストーリー】[シーン1:中部国際空港セントレアの到着ゲート〜名鉄電車のホームへ】◾️SE:飛行機の着陸音/中部国際空港セントレアのガヤ◾️SE:スマホの着信音「もしもし・・・あ、お父さん」「うん、いま着いたとこ。セントレア」「大丈夫。フランクフルトからセントレア直行便があったから」「モルドバから名古屋まで15時間よ」「あ〜、早くどぶろく飲みたぁい!」私は急いで、特急列車のホームへ向かう。名古屋駅から高山本線に乗り継いで・・・午前中に着いても、結局高山駅には夕方になっちゃう。私の名前は、美織。「美しさ」を「織りなす」・・と書く。名前負け?してないわよ。特急列車ミュースカイが発車するまで、父と私は話し続けた。「ママ?うん・・・すごくキレイだった」私がモルドバに行ったのは、ママのお葬式。話せば長いけど、私を産んだママは、モルドバの女性。私が生まれたとき、父は一之宮町の氏子。ママはモルドバからの留学生だった。父は無口な人だから多くを語らないけど、残っていた写真とか、ママからの手紙とか見ると2人はかなりラブラブだったみたい。でも、私が物心つく前にママはモルドバに帰った。そのときのモルドバは、親ロシア派大統領の就任で政情が不安定。両親を心配したママは、私と父を残して帰国してしまった。”ママが亡くなった”って連絡を、ママのママ・・つまりおばあちゃんからもらったとき。父は顔色を変えずに、「ママを、見送ってこい」と私を送り出した。結局ママが帰ってから20年以上経って、私はモルドバへ。初めて会うおばあちゃんは、私を見るなり、抱きしめて大泣きした。「Miori」「Miori」と私の名前を繰り返す。そのあとは何を言っているのかわからない。飛行機の中、ガイドブックで少しは勉強したけど、ルーマニア語なんて意味不明だもん。翻訳アプリもあまり当てになんないけど、どうやら「会いたかった」「愛してる」って言ってたみたい。イエ、という質素な民族衣装を着て、何度も何度も抱きしめる。そのあとも時間はそんなになかったけど、少しだけお話ができた。もちろん、翻訳アプリを使って。おばあちゃんの名前は”Viorica”(ヴィオリカ)あれ?それって、ワインの名前じゃなかったっけ?香り高い白ブドウの品種。飲んだことないけど。アカシアやジャスミンのような白い花の香り・・グレープフルーツのフレーバー・・バラの花を彷彿とする風味・・ピーチのような味わい・・なんでそんなによく知ってるかって?だって私、ワインのソムリエを目指してるんだ。”Viorica”。あら、そうなんだ。モルドバではお酒だけじゃなくて、女の子の名前にもするのね。可愛らしい女の子につけるんですって。不謹慎だけど、口元がゆるむ。タイムスリップして見てみたいな。幼いおばあちゃんの、澄んだブラウンの瞳。”Viorica”。瞳を見つめながら名前の響きを反芻してたらなんだか、不思議な気分になってくる。なんだろう、この感覚・・・おばあちゃん・・[シーン2:名鉄名古屋駅】◾️SE:名鉄名古屋駅のガヤおばあちゃんの余韻が、そよ風のように頭の中に流れる。じっくり堪能することもなく、ミュースカイはあっという間に名古屋へ着いてしまった。ホームを出て階段を上り、高山本線の改札へ。話は外(そ)れるけど。私の住む一之宮町といえば「どぶろく特区」。飛騨一宮水無神社の氏子総代がどぶろくを醸造する。春分の日に仕込み、...
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    17 mins
  • ボイスドラマ「湯上がり美人の郷」
    Apr 23 2025
    東京の喧騒を離れ、ひとり旅に出た女性がたどり着いたのは、深い山あいに湧き出る奥飛騨温泉郷。その静寂と湯けむりの中で出会った、ひとりの若き女将との偶然の邂逅(かいこう)――『湯上がり美人の郷(さと)』は、都会で傷ついた心が、温泉と人のぬくもりに癒されていく過程を描いた、心洗われるラブストーリーです。高山市奥飛騨温泉郷・上宝地区の新穂高温泉を舞台に、地元の文化や食、そして“はんたいたまご”のようにじんわりと心に沁みる出会いを、繊細な描写とともにお楽しみください。この物語は、「ヒダテン!Hit’s Me Up!」公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Apple Podcastなど各種配信サービスでお聴きいただけます。また、「小説家になろう」でもテキスト版をご覧いただけます。<『湯上がり美人の郷(さと)』>【ペルソナ】・主人公:シズル(28歳)=東京のグラフィックデザイナー。失恋してふらりと旅に出た(CV:日比野正裕)・若女将:ミオリ(24歳)=新穂高温泉の老舗旅館の娘。つい最近母を亡くして若女将に(CV:小椋美織)【資料/新穂高温泉「新穂高の湯」】https://www.okuhida.or.jp/archives/2204【資料/濃飛バス「バスタ新宿→平湯温泉」】https://www.nouhibus.co.jp/highwaybus/shinjuku/[シーン1:東京・新宿のカフェ】◾️SE:カフェの雑踏「さよなら」「え?」「今までありがとう」「どういうこと?」「じゃあね」別れは突然やってきた。初夏の足音が聞こえ始める頃。新宿のカフェ。2年間付き合ってた彼女は、最後通告をするなり店を出ていった。追いかけることもできずに、頭の中は茫然自失。自動ドアが静かに閉まり、朝の空気がすうっと入り込んでくる。思えば、2年間彼女を待たせ続けていた。なのに、口から出るのは思っているのとは反対の言葉。「将来のこと?そんな未来のこと、考えたこともないよ」本当は迷っていた。自分の仕事で生活をしていけるのか 。でも、彼女にはいつも軽口を叩いていた。私の名前はシズル。池袋のデザイン事務所で働くグラフィックデザイナー。彼女は出版社の編集だった。だった・・?ああ、もう脳内では彼女との関係が“過去形”になっている。他人(ひと)からはよく、”優しい方ですね”なんて言われるけど、それって、褒め言葉じゃないよな。今なら、よくわかる。心の中はひどい天邪鬼だし。彼女なんて、私のこと「ジャック」なんて呼んでからかってた。これから、どうしよう・・・まさか、デートの日、会ったばかりでフラれるなんて、考えてもいなかったから。そういえば、デートの行き先、最近はいつも彼女が考えてたっけ。これか。こういうのが、たまってたんだなあ・・だめだ、負のスパイラルに迷い込んでしまっている。落ち着いて、まず、身の回りのものを見てみよう。いま、持っているのは・・・スマホと・・スマートウォッチと・・ノートパソコン。と、あんまり中身の入っていない・・財布。これで、なにができる?どこへいける?どこへ・・・?冷めたカフェラテをすすりながら、ふと顔をあげると、視線の端に巨大ビジョンのサイネージ。『湯上がり美人の郷(さと)』いいコピーだな。どこだろう・・・奥飛騨温泉郷(きょう)?それって、どこだっけ?高山?岐阜県高山市・・・今日中に着けるのかな・・スマホでサクっと調べてみる。あ、新宿から高速バスが・・・出発は?11時5分。間に合うな・・・[シーン2:平湯温泉バスターミナル】◾️SE:バスターミナルの雑踏「さむっ」奥飛騨って・・標高高いんだな。にしても、平湯温泉まで片道5時間か。距離にして300キロ弱。道中、長かった・・・だって、彼女のこと考えて、全然寝れなかったから。まあ、いいや。時間はたっぷりあったから、どこへ行くかも決めておいたし。奥飛騨温泉郷(きょう)・・じゃなくて、奥飛騨温泉郷(ごう)の新穂高温泉。乗合バスで30分か。ちょうどいい距離感だな。目的は、立ち寄り湯。ポスターのビジュアルがその『新穂高の湯』という温泉だった。露天の岩風呂。ゆったりと湯浴みをする女性の後ろ姿。後ろ姿なのに、湯けむりの向こうで微笑んでいるのが伝...
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    21 mins
  • ボイスドラマ「朝日の中で微笑んで」
    Apr 13 2025
    東京での仕事と子育ての狭間で、限界を感じたひとりの母。偶然手にした一枚の手紙と、一枚の写真に導かれ、彼女は娘とともに飛騨高山・朝日町へと旅立ちます。たどり着いたのは、枝垂れ桜の咲く静かな山里。心と身体をすり減らした都会の日々とは真逆の、ゆるやかであたたかな暮らし。そして、声を出すことができなかった幼い娘が、初めて言葉を発したそのとき——彼女の人生は、もう一度、優しく動き始めます。本作は、飛騨高山を舞台にした地域発信プロジェクト『ヒダテン!Hit’s Me Up!』のボイスドラマ/小説シリーズの一編として、母娘の再生と、薬膳という知恵の物語をお届けします。ヒダテン!朝日よもぎの誕生物語です!(CV:蓬坂えりか)【ストーリー】<『朝日の中で微笑んで』>【ペルソナ】・母:かえで(28歳)=東京の広告会社で働くマーケティングディレクター。子育て中・娘:よもぎ(2歳)=2023年生まれ。生まれつき病弱でアレルギー体質。言葉を話せない【資料/高山市朝日町】https://www.hidaasahi.jp/<よもぎのモノローグとセリフで進行>[シーン1:「大廣古池前」バス停留所】◾️SE:夕暮れのイメージ(巣へ帰る鳥の群れ)どうしてこんなとこまで来てしまったんだろう・・・寒い。幼い娘は私の左足にぎゅっと抱きつく。そっか。私たち、普段着だ。私は薄手のニットにスキニーデニム。ジャケットも春用だから冷たい空気を遮断できない。いわゆるバリキャリスタイル。マザーズリュックだけ浮いてるわ。娘も薄着のまま連れ出しちゃった。ピンクのニット帽に小さなワンピース。子供用リュックが震えている。かわいそうなこと、したな。また母親失格・・ってか。私は、渋谷の広告会社で働くマーケター。得意分野はSNSマーケティングとインフルエンサーマーケティング。Z世代に向けた企画を毎日考えている。ま、私もギリ、Zなんだけどね。で、同時に子育て中。仕事と子育ての両立。・・・って、言うほど簡単じゃない。時間と段取りとストレスと睡眠不足に押しつぶされそうになって、いまココ。午前中、会社を無断欠勤して、新幹線に飛び乗った。小さな封筒をポッケに入れて。それは、大学時代の友達からの手紙。8年前。友達は大学を辞めて実家へ戻っていった。理由は、詳しく聞けなかった。しばらく音沙汰なかったけど昨日、8年ぶりに手紙をもらったんだ。でもなんで、手紙?メールとかでいいじゃない。あ、だめだ。プライベートのメールなんて、全然開いてもないわ。それに、手紙じゃなかったら、私ここに来てないもの。封筒の中には小さなメモ紙が1枚。綺麗な殴り書きで「いいところだから。遊びにこない?」メモは、プリントアウトした写真にクリップ止めしてある。ライトアップされた夜桜の写真。枝垂れ桜かしら。それが手前の水面(みなも)に映って、ゾクっとするほど神秘的。写真の裏に住所が書いてあったからふらっと来てしまった。高山市朝日町浅井。まさか東京からこんなに遠いなんて。寒そうにしてる娘に、私のジャケットをかけて抱っこする。う〜、さむっ。娘は今年で3歳。でもまだ言葉を喋れない。お医者さんは、多分精神的なものだろうって。脳の発達にも異常は見られないから心配しないように。あせらないこと。・・・って言われてもねえ。しかも、アレルギー疾患もあるし、よくお熱も出すし、心配がいっぱい。母としていつも一緒にいてあげなきゃいけないのに。ああ、マーケターって仕事のせい?いや違う、やっぱり自分のせいだ。今日もまた脳内で負のループが回り始める。こんな私なのに、傍目だと、呑気な親子旅行に見えるのかなあ。◾️SE:バスが発車していく午後5時45分。バスは定刻通りに「大廣古池前」に到着した。暮れなずむ時間帯。それでも、客は私たちだけじゃない。女子大生のグループかしら。それも1組だけじゃない。へえ〜、つまりこの桜、彼女たちをつき動かすほどの”映えスポット”ってことね。ネットで調べてわかったんだけど、朝日町って、別名「枝垂れ桜の郷」って言われてるんだ。町のあちこちに枝垂れ桜。淡いピンクに包まれる農村の町...
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    19 mins
  • ボイスドラマ「櫻守が見た夢〜儚い春の風」
    Apr 4 2025
    昭和34年――岐阜県・荘川村は、御母衣(みぼろ)ダムの建設により、湖の底へと沈む運命にありました。その村の一隅、光輪寺に佇む一本の老木「荘川桜(しょうかわざくら)」は、400年の命を生き、村を見守り続けてきた存在でした。本作『櫻守が見た夢 〜儚い春の風〜』は、史実として語り継がれる荘川桜の奇跡の移植を背景に、桜の精「さくら」と、ダム開発の責任者「リョウ」との、時を超えた恋を描いた幻想譚です。出演は声優・岩波あこ。ボイスドラマとして、飛騨高山を舞台にした番組「Hit’s Me Up!」の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon Music、Apple Podcastなど、各種プラットフォームで配信中です。さらに、「小説家になろう」サイトでも物語をお楽しみいただけます。桜の花が風に舞うように、儚くも優しい記憶。あなたの心にも、ほんのひとひら、届きますように(CV:岩波あこ)【ストーリー】[シーン1:1959年11月後半/光輪寺】<さくらのモノローグとセリフで進行>◾️SE:吹雪の音「もうすぐお別れね。400年っていう歳月は、長いようで、実はあっという間だったわ」誰に聴かせるでもなく、静かに囁いた声は、雪に吸い込まれるように消えていく。早雪(そうせつ)。11月に降る雪をこう呼ぶ人もいる。はるか昔より、私はこの桜とともに、ここで暮らしてきた。私は・・・そうだな。櫻守(さくらもり)、とでも言っておこうか。ここは、荘川村の光輪寺(こうりんじ)。寒風の中、江戸彼岸桜の老木は、眠るようにたたずんでいる。老いてなお、春になると見事な花を咲かせるはずだった。だが、それも来年で見納め。いや、工事が早く進めば、春を待たずに、その命は絶たれることになる。この村は、ダムの底に沈むのだ。私は感謝の思いを胸に秘め、目を閉じた。雪混じりの風が頬をかすめる。冷たいはずのその感触が、どこか懐かしくて、優しいものに思えた。1959年、私には最後の冬。頬にあたった雪がゆっくり溶けていく。まるで、桜色の涙を流しているようだった。◾️SE:吹雪の音〜雪の中を歩く足音どのくらい時間が経ったのか、よく覚えていない。どこからか小さな視線を感じていた。いつの間にか風は凪ぎ、しんしんと雪が降る。静寂の中、微かな息遣いが伝わってきた。振り向けば、スーツの上にネイビーの作業用ジャンパーを羽織った男性。足元に積もった雪が、彼の迷いを映すように揺れている。彼の顔は・・・知っている。ダム開発の責任者だ。名前は・・たしか・・リョウ。そうか、確か今日、建設反対派の解散式だったんだな。開発側の人間にしては、嬉しそうな顔には見えないが。リョウは、私と視線が合うと、雪を踏みしめながらこちらへ歩いてくる。私の方を見て、目を見開きながら、”どうして、今まで気づかなかったんだろう”と、つぶやいた。なにを言ってるのかしら。私、雪の日も、雨の日も、いつだってここにいたじゃない。体に降り積もる雪をはらおうともせず、彼は、私と老いた桜をずうっと見つめていた。[シーン2:1960年2月/光輪寺】私とリョウの逢瀬は、それから毎日のように続いた。といっても、一方的に彼が逢いにくるのだけれど。ま、私、出不精だからしょうがないわね。遅い春が、小さな温もりを運んできても、彼は私の元へやってきた。”君を、守りたい”が、彼の口癖だ。直接的な、愛の言葉。何度言われても、醒めることはない。愛おしそうに私を抱きしめるリョウ。ああ、いつまでもこうしていたいけど。彼はまっすぐな瞳で私を見つめ、ため息をつく。そんな、悲しい顔をしないで。いま、この瞬間(とき)を大切にして。私たちは時間の許す限り、逢瀬を重ねていった。[シーン3:1960年4月/光輪寺】新しい年を迎え、住民はひとり、ふたりと村を出ていく。町では桜が落下盛んとなり、眩しい新緑に生まれ変わる頃。私にとって、一年でもっとも輝く季節がやってきた。樹齢400年を越える巨木が、見事な花を咲かせる。人々が太い幹の下に集まり、杯を酌み交わす。去年より人の数は多い。心なしか、今年はみんな、ときどき寂しそうな表情をする。やだなあ。花の命は短いのよ。...
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    12 mins
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